実家へ戻った瑞穂は、仏間の押し入れを開け、一人で古いアルバムを捲った。 大半は皇国陸軍の茶褐絨色をした軍装を身に纏う、亡父の写真だ。志貴に面影を残す父の若き日々から、肩章や勲章が豪華になっていく様が凛々しく微笑ましい。幼い正装をした志貴の手を引く若き着物姿の母と羽織り袴の父……正月か何かかと思えば、入学式と書いてあった。黒の道着姿に親子で身を包む、父と兄の写真もあった。こうして見ると、第一子であった志貴の成長を、多忙な筈の父が殊の外楽しみにしていたのだとよくわかる。常に優秀であった志貴は、ずっと父の期待に応えようとしていたのだろう。 瑞穂の写真が出てくるのは、かなりあとになってからだ。数はごく少ない。なぜなら、父の収監を機に、秋津家で家族写真を撮影することはなくなったのだ。 アルバムを直し、瑞穂は再び仏壇に手を合わせる。そして父へ改めて報告をすると、午後十一時過ぎに家を後にした。 心中は正直に言って穏やかとはいかなかった。さまざまな思いが胸を渦巻いていた。志貴と言い争ったことや、母に諌められたこと。きっと母とは、どこまでも考え方が相容れないのだろう。 ヤチヨ山の帰り際、月読から聞かされた話……。志貴に好意を寄せるぶんだけ、月読の思いが過剰になっているところはあるだろうが、それだけでは済まされない切実さが彼女にはあった。 あらためてアルバムを見返してみると、父と志貴の関係はごく良好であり、父に愛され、その期待に応えようとしていた志貴のまっすぐな姿が写真から伝わっていた。父の最期を無念極まりない思いで受け止めていることは、家族全員同じであろうが、とりわけ志貴が重い何かを背負っているとは、一度たりとも考えたことはなかった。その志貴が、自分や母に隠れて号泣していたなどと、想像したことが果たしてあったか……。 月読が見ている志貴は、まるで自分の知らない兄の姿だ。それほどまでに父の死を重く受け止め、家族をカミシロを愛していると言うなら、どうして敵たるアグリア人やアルシオン人と仲良くなど出来るのだろうか。そこまで考え、瑞穂は立ち止まる。 果たして、仲良くしているのか……? 彼らが許せない瑞穂は、アグリア人やアルシオン人達と交流を持つことすら避けている。すべてのアグリア人やアルシオン人が敵だとまで言うつもりはないが、現に今この街で起きていることを思い、父に濡れ衣を着せられ殺された遺族の立場としては、とても身近に接することは出来ないし、そこを譲る義理はないと言える。 徹底的に彼らを避けてきた結果、自分は、桜花は、果たして何がその手に残った? 逆にアグリア人やアルシオン兵と適度に繋がりを保ってきた兄は、S&Kは、どのような力を得た? 感情に任せ、憎いものを憎いのだと叫び続けることが、果たして戦いか? 自分が歩んできた道は、闘争などではなく、ただの子供の癇癪だったのではないだろうか。だから視界が狭量となって、度胸と無謀を履き違え、避けられた危険へ自ら飛び込むような真似をしたのではないか。 志貴と賢とともに一心会の活動をしていたころ、自分と大和は戦略会議と称した勉強会がけっこう好きだった。知識は大いなる武器だと、口癖のように志貴は述べ、ハーフで語学が堪能な賢が、インターネットや書物から集める情報を元に語りあい、瑞穂と大和は世界が広くなっていく喜びを知った。志貴が続けていることは、あるいは今も昔も、何も変わらないのかもしれない……自分は一体、兄の何を見てきたのだろうか。 思索に囚われ、いつになく遅々とした歩みでアオガキ川の畔を歩き続けた瑞穂が、桜花の拠点となる廃工場の影を目に収めたのは、零時頃……それは奇しくも、瑞穂がチーセダの武器庫となっている空き地へ突撃し、真達がカチューシャSを強奪した時間帯だった。思いに耽るあまり、周囲への注意力が希薄になっていた瑞穂が、異変に気付いた時、既に逃げ場を失っていた。 「よう、姉ちゃん……遅かったな」 二度と耳にしたくはないと思っていたその声は、西湖ニットのゲートに足を踏み入れた瞬間、耳元で聞かされ背筋に戦慄が走った。咄嗟に瑞穂は身を翻して川沿いへ向かった。たった今上がって来た斜面を駈けおりて、ツユクサの生い茂る河川敷を走るが、怒号を上げながら後に続く彼らの脚は、想像していたよりずっと早い。 「捕まえろ!」 号令で一斉に取り囲まれて、手足を拘束される。 「嫌だッ、放して……!」 地面に押し倒されて、何発も身体じゅうを殴られた。 「おらおら、あの時の勢いはどうした、クソガキが! 三下にマウントをとられて、悔しくねえのかッ? おおッ?」 アロハシャツのアグリア人が腹の脇へデニムの膝を突き、デッキジャケットの襟元をわし掴みにしながら、拳を何度も振り下ろす。 「ぐあああッ……!」 口の中を切り、鼻血が出た。一発、一発のパンチがとんでもなく重い。 「ふざけてんじゃねえぞ、チンピラがあ……!」 襟首を掴まれ、地面に叩きつけられる。 「うわあぁ……!」 痛さからくる涙と鼻血でグシャグシャになった顔が、ツユクサの茂みに埋没する。口の中へ土と草が入り込み、吐き出せば、砂利と一緒に折れた奥歯が出ていった。 「おい、そのぐらいにしとけリモン。……うわあ、悲惨じゃねえか、馬鹿野郎が、顔やりやがって。別嬪が血塗れになっちまったら、せっかくのお楽しみが興醒めするだろう」 前髪をわし掴みにして頭を持ち上げられると、掌で乱暴に顔を拭われた。 「痛……ッ」 固い皮膚が切れた口元を擦り、瑞穂は刺激に顔を顰める。 「てめえが桜花の瑞穂だな? 舐めた真似してくれた代償、たっぷりと身体で払わせてやるぜ」 頭の上で両手を拘束され、仰向けに寝かされた瑞穂は、ファスナーの壊れたデッキジャケットを左右に開いて、またしてもパジュの目の前へ両方の乳房を晒していた。 「男の様な格好をしたって、所詮は女だな。こうやって俺に組み敷かれりゃあ、ヒイヒイ啼くしかねえ」 大きな手で乳房を揉みしだかれ、瑞穂は歯を食いしばる。 「ぐっ……糞ッ……」 「あのときは、とんだ真似してくれたなあ。男前を傷付けてくれやがって、その責任もとってもらうぜ」 狂気にギラついた目を間近に近付けられ、瑞穂は顔を背ける。右の頬骨から鼻骨を直線的に伝い、左眉の上まで走っている癒えかけの赤い傷痕が、車の中で瑞穂がガラスの破片で切りつけたものだとすぐにわかった。 確かに目鼻立ちは整っている方と言えるだろうが、所詮アグリア人はアグリア人だ。切りつけられるだけのことを、この獣は自分にした。 「何が男前だよ、ケダモノの癖に! ……あぁッ」 「おいおい、言ってくれるなあ。イケメンのパジュ様にヤられて、メロメロにならない女はいないぜ。光栄に思えよ」 固い爪を食いこませるようにして左右の乳首を押し潰された。あまりの力の強さに目元を顰めると、今度は繰り出したその部分を強引に引っ張られる。 「やめてッ……あぁうッ……はあッ」 乗用車のドアを片手一本で破壊した怪物だ。本気でこの行為を続けられたら、冗談ではなくいつか乳首を引きちぎられそうな気がした。 「美味そうな色になってきたな……次はこっちだ。おおっと……暴れたって、今度は凶器はどこにもないぜ。まあ、大人しくしてろって、天国に行かせてやるからさ」 ベルトを外され、ファスナーを下ろしたデニムを下着ごと引き摺りおろされた。 「嫌っ、やめろおお……」 暴れようとする瑞穂は両脚を押さえられつつ、アグリア人達にどよめきがあがるのを聞いた。 「なんだこれ……こいつ、やっぱり男なのか?」 腕を押さえていた三下、リモンが興味津々に身を乗り出しつつ言った。 「いや、けどおっぱいあるだろ。パジュにもみくちゃにされて、アンアン喘いでんじゃねえか。スカート履いてたしよ」 作業着姿で足首を押さえている男が言う。 「馬鹿野郎、スカートなんて履こうと思えば男でも履けるだろう。何でもいいから、さっさとやっちまえよ、パジュ。後がつかえてるぜ」 その隣で煙草を吹かしながら瑞穂を見下ろしてる男が、苛々とした口調で言った。 「まあまあ、慌てるなよお前ら。聞いたことあるぜ、アルシオンのT弾を浴びた胎児に、こういう両方付いてるガキが生まれたって話をさ。しかも両性具有ってのは、揃いも揃って、とびきりの美人だってな。伝説が本当だかどうか、確かめてやる」 「嫌だ、やめて……」 強引な力に左右の両脚を割られ、腰を折るようにして持ち上げられた。陰部が好色な視線に晒される。 「伝説は、どうやらマジだったな」 パジュが瑞穂を見つめてニヤリと笑った。 「すげえ、マジで両方あるじゃん、……しかもちょっと濡れてねえか?」 「畜生、街灯だけじゃ暗くてよく見えねえよ」 三下が瑞穂の上へ乗り出すように覗き込み、作業着の男もまた顔を近付け、瑞穂の股間を観察した。 「お前ら邪魔だ、ちゃんと押さえてろ。……よおし、それじゃあ俺様自慢のイチモツを突っ込んでやる。失神すんなよ」 そういってレザーパンツの前を解放すると、見たこともないような存在感のある凶器がダラリと躍り出た。 「嫌だ……嫌だ、無理だ……そんなの……」 僅かに勃ち上がったそれは、裕に瑞穂の手首ほどの太さがあり、引き裂かれる恐怖を味あわせるに充分な大きさを持っていた。極端な出っ張りを持つ先端を顔に近付けられる。 「おい、舐めろ」 固い感触でグイグイと口唇の間を割られ、閉じた歯の上に擦りつけられたが、すぐにパジュはその行為をやめると、再び脚の間へ膝を突き直した。 「怪我しねえように、濡らしてやろうと思ったのに、馬鹿な女だな。まあいい、そのままがいいってんなら、希望通りすぐに突っ込んでやるよ」 襞の割れ目に熱い感触が押し当てられ、すぐにメリメリと引き裂かれる痛みが瑞穂を襲った。 「ひっ……うぁっ、あああああああああああああッ」 前回は途中で断念したとはいえ、それは大和を受け入れたときの比ではなかった。とてつもない熱と固さと容量を持った異物が瑞穂の胎内へ侵入し、間もなく訪れた筈の壁に到達しても尚、それを無視して更に奥へ奥へと目指して入ってくる。 「へへっ、すげえキツさだな。お前ひょっとして処女か?」 「あぁっ、ああ……うあっ……あっ……」 襞は無残に引き裂かれ、内壁が熱を持ち、悲鳴を上げて乱暴に擦られる。中から突き上げられる強さと許容量を超えた塊の大きさに、何度も意識が飛びそうになった。 「どうだ、初めて男を受け入れた感想は? 最初が俺じゃあ、そこらへんの男じゃもう、満足出来ねえだろうなあ」 血の匂いが辺りに充満し、気分が悪くなった。嗚咽を漏らし、目の前は涙と再び出てきた鼻血でぐちゃぐちゃになる。 「あっ……あっ……はっ、あっ……」 しつこいほどに突き上げられ、身体の奥が熱を持ち始める。同時に出血で滑りが良くなった感触に気を良くしたのか、パジュの動きが大きくなった。 「おっ……くぅっ……いいぜっ、良くなってきた……」 パジュが愉悦の声を漏らす。受け入れている場所から聞こえる水音が、あからさまな響きを放ち始めた。 「コイツも、だんだん良くなってきたんじゃねえか?」 三下が好色そうに瑞穂を覗き込みながら言った。 「当たり前、だろ……俺様のマグナムぶち込まれて、ハマらない女が、いるわけねーっ、くっ……そろそろ、出すぜっ」 一層動きが早くなり、容赦のない激しさで瑞穂は胎内を殴られた。爛れ、血に染まった膣が夥しい出血を漏らしながら獣の性器を受け止める。 「あ……あんっ……はああ……」 突かれる度に、半開きの口唇から、瑞穂は細い声を漏らした。さらに速度を上げながらパジュが性器を擦り付けたのち、感極まった呻きを漏らして、体毛に覆われた巨躯を震わせる。 「くっ……うっ……」 腫れて熱を持った内壁へ、それ以上に熱い飛沫が放出された。 「あぁ……うそ……だ……」 数度に分けて精の解放を受け止めると、漸く獣がその場所から出て行く。無残に形を変えられた陰部から、爛れ切った膣を伝い、今しがた吐き出された白い精子の流れが、中で血と混じり合いながら、濃いピンク色の粘液となってボタリボタリと肌を伝った。間を置かず、別の熱をその場所へ押し当てられる。 「次は俺だ。……まあ、せいぜい良くしてくれよ」 喫煙男が冷たい目で見下ろしながら覆い被さってきた。再び瑞穂の肢体は引き裂かれた。 延々と続いた凶行は、その場にいた七人のアグリア人全てを瑞穂が受け止め、意識を失い、中から揺さぶられる感覚で目が覚め、また意識を失っても尚、容赦なく続けられた。とうに受け入れている場所の感覚はなくなり、圧し掛かられる重さと、涸れるまで叫び続けた喉のひりつきと、不自然な格好を続けていた関節の痛みや怠さだけが、現実的な感覚となっていた。 全員に犯され、さらに一巡し、パジュが三度目の精を吐きだした頃、どこかで高い破壊音が聞こえた。そして自分の中から男が出て行き、再び誰も入って来ない事に安堵したところで、瑞穂は今度こそ意識を失い、深い眠りについた。 08 |