扉の奥へ押し込まれるなり、服を脱がされ掛けて、僕は慌てる。
「や、嫌だっ……こんなとこじゃ、……すぐに人がっ……」
「こんな状態になってもまだ鹿橋さんのことを考えるなんて、俺を随分と舐めてますね。いいから、さっさと脱ぎなさい。抵抗すると、余計に時間がかかりますよ。人に見られたくないんでしょう?」
そう言い放つなり、濡れたパンツを下着ごと抜かれる。
「嫌っ、嫌だっ……せめて、個室に……ああっ、だめっ……」
抵抗しようとした手を跳ね除けられ、、剥き出しの腰を強く押さえられた。しめった尻に熱いものを擦りつけられる……狼森はすっかり勃起していた。先端が窄まりに触れ、すっかり馴染んだ感覚がスムーズに侵入してくる。
「んっ……ああ……熱いですね……」
「やぁ……勇太ぁ……」
会社のトイレで……いつ警備員が飛んでくるかもわからない状況で……いつ鹿橋に発見されるかもわからない場所で、……僕はとうとう狼森にセックスを許していた。
「凄いっ、凄いよリョウちゃん……いい。リョウちゃんもいいでしょ?」
「いいっ……いいっ……ああ、いいっ……」
狂ったシチュエーションが、いつになく狼森を興奮させたのだろうか、いつもより彼は大きいような気がした。そして僕も、こんな場所で求められている異常な感覚が、神経を研ぎ澄まし、普段以上に感じていた。
音を立てながら腰を打ちつけつつ、狼森は器用に僕のシャツのボタンを全部外し、胸を弄った。
「リョウちゃんのここ……前より大きくなってる……凄いね」
「お前がそうやって毎日触るから……」
前から乳首が人より目立つ自覚はあったが、最近はますます大きくなっていた。5月に入って日中は暑いぐらいの日が何日も続いているので、ジャケットを脱いで仕事をすることも多いが、昨日とうとう鹿橋に乳首が立ってるとからかわれた上に、まじまじと見つめられて、女みたいだと指摘をされた。
「ひっ……い、痛っ……!」
グリッと乳首を捻られる。爪を立てられた。
「何を考えてたんですか? どうせまた鹿橋さんのことでしょう」
「違っ、違うからっ、……ああっ、ああっ、だめっ、だめ……そんなことしたらっ……」
続けて狼森が両手で胸を包みこみ、握力全開で揉み始めた。
「自分がどれだけエロい身体なのか、リョウちゃんはわかってますか……? どうしてそうやって、簡単に誰にでも身体を見せつけるんですか!」
さらに腰を猛烈なスピードで打ちつけられ、身体が前のめりになり、壁へ手を伸ばす。それでも背後から狼森が、容赦なく内壁を抉り、乳首が真っ赤になるほど捻られ、押し潰され、痛いぐらいに胸を揉まれた。あまりの激しさに手で身体を支えられなくなり、タイルに頬を押し付け、上半身を壁に委ねて体重を支える。ただでさえ敏感な乳首がヒリヒリと悲鳴をあげていた。
「見せてないっ、見せてなんか……」
次第に痛さが快感に摩り替って行くのを感じる。
「見せているっ……リョウちゃんは、見られることが気持ちいいんだ!」
背筋がゾクゾクとざわめいた。全身の血が逆流しそうな錯覚に陥った。
「ああ、だめ、だめぇ……ああああああああああああああああああああっ」
「はぁ……んっ……リョウ、ちゃんっ……!」
水色のタイルに勢いよく白い粘液が飛び散った。同時に腹の中へ狼森の放出を感じる。一気に上り詰めた身体が弛緩して、僕は壁伝いにその場へずるずるとくず折れた。狼森がすぐに覆い被さり、首筋や頬、口唇に次々と吸いついてくる。
「あぁ、はっんっ……ふっ……ふんっ」
息つく隙もないほど、強烈な口付けだった。
「リョウちゃん……誰も見ないで……俺だけを見ていて……」
「わかってる……お前しか……見ていないから……」
口付けに応えながら、上半身も裸にされ、再び狼森に求められたが、俺はもう抵抗しなかった。
「んっああっ……はっ……そこっ……いいっ、勇太っ……」
「どっちがいい? お尻の中? それともおっぱい?」
「両方っ……勇太っ、勇太っ……もっとっ、もっとしてぇっ……」
タイル敷の床に膝をつきながら、背後から勇太を受け入れ、伸ばした両手で左右の胸を揉まれていた。目の前には姿見になっている大きな鏡があった。そこには髪を振り乱しながら、狂気じみた表情を浮かべて組み伏せた者を攻め立てる狼森を見つけ、続いて全裸でたるんだ肢体を乱れさせている、だらしない顔をした痴態を確認した。女のように垂れ下がった胸は、後ろから突きあげられるたびに、ブルンと震え、引っ掻きまわされた先端は真っ赤に腫れあがり、女の乳房と見紛う膨らみは、大きな掌で形を変えて、白い丸みには指の痕がベタベタと付いている。そのうち何箇所かは、紫色に変色していた……連日同じような場所を捻りあげられて鬱血しているのだ。
「うっ……凄っ……締まる……」
「あああっ、勇太ぁ……出してぇ……」
口にした瞬間、何度目かの射精を中に感じて恍惚とする。前後して、目の前の鏡の前が白い飛沫に汚れていった。
そのとき……。
「えっ……? し、失礼……」
鏡の奥……つまり僕達の背後で扉がすっと閉じて、誰かが去っていく気配があった。立ち去る直前……一瞬だけ見えたパンツの足元は、本日鹿橋が着ていたもスーツと同じ色だった。
fin.