ユウとて、ショウとは既に何度も肌を合わせた仲だ。初めてのときこそ、誰が見ているとも知れない路地裏で、華奢なその身体を乱暴に扱われ、傷つけられもしたが、惚れたのは恐らくユウが先だ。誰にも言いはしないが他人が聞けば散々なその初体験も、ユウにとっては幸せこの上ない、ギラギラと輝く宝石のような思い出だ。大学時代、さりげない優しさで……よくよく思い返してみると、それは果たして本当に『優しさ』だったのかどうか疑問は残るが、それでもこの男に助けられたと思った、その瞬間から7年間、ユウが強く思い続け、その身を抱かせる相手は唯一人、何を考えているのかわからない目の前のこの男だけなのだ。そして結ばれたあの夜から、ショウの不誠実さに目を瞑って言えば、一応恋人と言えるポジションに座っているのはユウであり、だからこそクリスマスイブの夜にラインでメッセージを送ってくれたと信じているし、それを見つけるなり一も二もなくマンションまで駆けつけた。
 会えると思っていなかった恋しい相手と二人きりで過ごしたいに決まっている。
「連絡先なんて知らないよ。っていうか、勝手に入ってたって言ったじゃないか。なんで俺が呼び戻すんだよ」
 いつの間にどこから取り出したのか、ショウがセブンスターに火を点け、目を細めて煙を吐きながら言う。その態度に少しイラつく。
「まだそんなこと言ってんのか? 俺なんかに構ってる場合じゃないだろ、聖夜なんだから……彼女と過ごせよ!」
 譲りたいわけではない。そんな筈はない。しかし、目の前で自分以外の誰かを呼ばれて、その相手を追い出させたとは言え、はい、そうですかとベッドへ入る気になれる筈がない。
「彼女なんていないし、知らない女だって言ってるだろう……、ユウさっきから何か勘違いしてないか?」
「勘違いなんて……マジで知らない女……なのか? ……っくしゅ」
 ここに来て、どうやらショウが言い訳をしているわけではないらしいと、気が付いた。ユウはドアノブから手を放す。
「だから、そうだって言ってるじゃないか……とにかく入れよ。俺も寒くなってきたから」
「でもなんで知らない女が勝手に……?」
「それこそ知らないよ。ただ、最近帰宅すると、まるでさっきまでエアコンをつけていたみたいに部屋に温もりが残っていたり、下着の紛失が頻発したり、作った覚えのないシチューが鍋にたっぷり入っていたり、つねに誰かの視線を感じたり、シャワーを浴びている最中、浴室のドアガラス越しに人影が見えたり……」
 リビングへ移動しながら、ショウは指折り何かを数えるようにして説明した。セブンスターの白い煙が廊下に漂い、目に入りそうなそれを手で払い除けながらユウは相槌を打つ。
「ス、ストーカー……不法侵入……」
「で、さっき買い物から帰ってきたら部屋にあの子がいた。念の為に言っておくけど、初対面だよ」
「け、警察……」
 デニムのポケットからスマホを取り出しながら言ったが。
「ええ、せっかくユウが来たのに、やだよ」
 スマホを取り上げられた。
「んなこと言ってる場合じゃねえだろ、警察……お、おい!」
「とりあえずセックスしてからね」
 咥え煙草のままソファへ押し倒され、灰が顔に落ちて来そうなそれを慌てて取り上げ、テーブルの灰皿へ手を伸ばす。
「危なっ……、馬鹿野郎、脱がすな……こ、こら、不審者入ってんだぞ……おい、や、やめっ……」
 背中を向けた瞬間、器用に後ろから手が回ってベルトを外され、一瞬で尻を剥きだしにされた。
 その後、良いように弄ばれ疲れ果て、寝室へ移動することもなく、リビングの床で気を失うまで喘がされた。


 翌朝早くにユウは、相変わらずフロアカーペットの上で丸くなり、スヤスヤと平和な顔で眠るショウを叩き起こして、パンツの他に盗まれたものがないか部屋中を確認させ、クリスマスの朝から警察署へ連行した。後に判明したことだが、元はと言えば、ショウの遊び相手だった女性経由で合鍵を作られていたため、自業自得の側面はあったが、侵入していた女とは正真正銘完全な他人であったようだ。
 また、『カラーレスのギタリスト空き巣被害』というニュースがスポーツ紙を飾ったのは、その日の夕方のこと。ユウにさんざん尻を叩かれ、腰の重いショウが危険性を認識して漸く引っ越したのが、リビングのベランダから見える河川敷の美しい景色を肴に、あのストーカーが部屋で花見酒を呷っているのを仕事から帰って来たショウが発見し、今度は自分で110通報した一週間後のことになる。

end
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